ニュー・シネマ・パラダイス 別解 涙の理由

王様がパーティーを開き、国中の美しい女性が集まった。
一介の護衛の兵士が王女の通り過ぎるのを見て、あまりの美しさに恋に落ちた。
でも、王女と兵士では身分が違いすぎる。
あるとき、護衛は王女に話しかけた。


「あなたなしでは生きていけない」


王女は兵士の深い思いに驚き、こう告げた。

「100日間の間、昼も夜も私のバルコニーの下で待っていてくれたら、私はあなたのものになります」


兵士はバルコニーの下に飛んでいった。
2日、10日、20日がたった。
毎晩、王女は窓から見守っていたが兵士は動かない。
雨の日も風の日も、雪が降っても、蜂が刺しても兵士は動かなかった。


90日が過ぎた頃には、兵士は干からびて真っ白になっていた。
体の限界はとうに越えている。意識ももう保てそうにない。
もはや眠る気力さえなかった。その時、兵士は起きたまま夢をみた。


  蝶が舞う一面の花畑。兵士と王女は手を取り合いと花畑を転がっていく。
  王宮からの追手に追われる生活は、確かに楽ではなかった。
  王女に対する遠慮とすれ違い。現実は空想ほど許容も慈悲も無い。
  しかし、そこには確かに暖かな家庭があった。
  年を重ね、子をなし、他愛も無い話で笑いあう。
  そんな兵士の望む幸せの形が確かにあったのだ。
  年老いた王女は今際の際、子ども達に囲まれながらつぶやく。
  ありがとう。私は幸せでした、と。


気付けば兵士の眼からは涙が滴り落ちていた。
だが、兵士の体には涙を押さえる力も残ってはいなかった。
兵士は途切れ途切れの意識の中で考える。
自分は王女を愛したかったのか、それとも王女に愛されたかったのだろうか。


王女は動かない兵士をずっと見守っていた。


そして、99日目の夜。
兵士は立ち去っていった。


その後、程なくして兵士は病に倒れ死んでしまった。
彼が病の床で熱にうかされたように呟いていた言葉がある。


「王女よ、やさしい夢をありがとう。願わくば貴方の記憶に在り続ける栄誉を」



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