胎児の夢

彼女は何も知らない、何も見たことがない。
ただひたすらに海に揺蕩う。
彼女は何を想うのか。彼女は何を夢見るのか。


彼女は世界の狭さを知らない。
彼女は内なる広さを知らない。
彼女にあるのは逆さの天地と二つの心音。
時が満ちれば世界は頭上から落ちてくる。


夢と現の境界で、初めて彼女は息を吸う。
泣いて彼女は忘れてしまう。
始まりのない胎児の夢を。
闇ですらない胎児の夢を。