怒りの理由

「ベートーベンって耳が聞こえないのにどうやって音楽作ったの?」
娘1の素朴な疑問に対し、棒をくわえてピアノにくっつけたりしていたと回答を述べると、
「それは無理。聞こえんわ」
と言下に否定される始末。
概ね信頼がない。でたらめを伝えた心当たりがありすぎて自業自得ではあるけれども。


クラシカロイドを見たりしたことで、多少興味が出てきたらしい。
音楽室に肖像画がある人々の名前と実績がようやくつながり始めたみたいだ。
ピアノをずっとやってきているのにねえ……。
まあ、そんなに有名な曲をやるまでには至っていないからそんなものかもしれない。
手近なところに教材がないと興味関心なんて生まないものだ。


「だからかー。娘1にはなんでか分かった」
深く何度もうなずく娘1。一体何を得心したというのか。
「耳が聞こえんからべトさんはあんなに怒った顔しとるんやな」
oh! ZA・N・SHI・N。
そう言って何度もうなずいていた。思い当たることがあるのであろう。
その気づきの前には、保護者として彼女に言えることはなく、ただただ生暖かい眼差しで見守るのみなのであった。