らしい動き

わしづかみ能力が日々向上している。
左手は添えるだけ、なのが珠に傷だけれど。というか、豆腐をほぐす用途にしか使っていない。鶏に牛刀を用いている感じである。大根なんかは大きくても男らしく片手なのにな。


上手に食べられるようになったせいか、催促も矢継ぎ早になった。
早く置けといわんばかりに両手を机にぶつける。
子供らしい動きだ。まるで漫画みたい。ということはどこの子もやるに違いない、
そう自分を安心させておこう。


基本的に成長が普通よりも遅めの我が子だが、食事に関することについては群を抜いて早熟だ。
「二人目?」とよく言われる。昨日なんか一歳半の子のお菓子を横どろうとしていた。
我が子の成長なのだから嬉しがるべきなのだろう、多分。あえて誰に似たのかは考えない。


早く食べたいからといって、たくさん目の前に並べると混乱する。
また、一個目を食べた瞬間に置いてある他の食べ物を忘れる。
みかんが3度のご飯より好きなのでよく剥いてあげるのだが、目の前に何房並べても一個食べたら私の剥いている本体を凝視する。


きっと子供にとってはみかんは一欠片ずつでしか存在しないのだ。
剥いて目の前に置かれるというみかんらしい動きをしないと認識できない。
魚釣りのルアーと一緒ということか。
というか、みかんらしい動きってなんだ。


子供は私を見るとぱっと笑顔になる。認識して貰えるのはとても嬉しい。
多分、子供にとって私は私らしい動きをしているのに違いない。
親らしい、大人らしい、私らしい。
らしい動きってなんだろう。
子供はなにも考えなくても子供らしい。