暗闇の中の影

闇の中の影を見たことはあるだろうか?


月明かりに照らされ、ぶらぶらと家への帰り道にふとそんなことを思った。
なんとなく不安になって自分の足元をみると、果たして影はきちんとそこに在る。
見上げれば煌々と月。彼の射す光が影をしっかりと足元に縫いとめる。
ゆらゆらとはするけれど、そこに光がある限り、影はその分際をこえることはない。


しかし、思うのだ。
光のくびきから取り払われたとき、影何処へと行ってしまうのではないだろうかと。
長年連れ添った私を捨て、自由を求めて飛び立ちはしないかと。
ただ、幸いながら今はまだ私の足元に影は在る。
ひたひたと響く足音に合わせて、伸びたり縮んだりしながら私の後をついてくる。
どうやらまだ愛想をつかされた訳ではないらしい。


でも、注意だけはしておこう。
月の光に見惚れては、私の影が妬くだろう。
天の光に焦がれては、影の暗さが深くなる。