蜘蛛の巣

ある日の朝、お釈迦様は極楽を歩いていた時、蓮池からはるか下の地獄をふと覗き、一人の罪人を見つけました。
その罪人は生前、様々な悪事を行った為に地獄に落とされていたのですが、それでもたった一つ良いことをした覚えがありました。
あるとき、ネットを徘徊していると愚にもつかない人力検索はてなを発見しました。
さっそく参考リンク先を捏造し、さも真実のように嘘を並べ立ててやろう。釣られたら増田に曝して大笑いしてやろうぷげら、と思いましたが、「いくら下らない質問といえど本当に困っていることには違いない。その質問をあざ笑うということはいくらなんでもかわいそうだ」と思い、本当のことを回答し、はてなポイントを20貰った事があったのです。
お釈迦さまは地獄をご覧になりながら、そのようなことがあったのを思い出し、地獄の底の罪人を極楽への道へと案内するために、一本のトラックバックを罪人にあたえました。


罪人は極楽から伸びるトラックバックを見てとても喜び、「これで10hit/dayの弱小サイトから脱出できるばかりかアフィでうはうはできるかもしれない」とトラックバックを両手でしっかりと掴みながら、一生懸命上へ上へと手繰りのぼり始めました。
ところが糸をつたって上っている途中でふと下を見下ろすと、数限りないはてなの住人達が自分の記事にネガティブコメントを書いています。
罪人はこれを見ると驚いたのと恐ろしいのとで、しばらくは莫迦のように大きな口を開いたまま、眼ばかり動かしておりました。
自分一人の自意識すらもてあましてしまうこのサイトが、どうして閲覧者の非難に耐えることができましょう。
罪人は「こらはてな民ども。このトラックバックは俺のものだ。お前達は一体誰に聞いてコメントしてやがる。削除しろ、削除しろ」と喚きました。


そのとたんでございます。今までなんともなかったトラックバックが、急に罪人のぶら下がっている所からぷつりと音を立てて切れてしまいました。
ですから罪人もたまりません。あっという間もなく風を切って、独楽のようにくるくる回りながら、見る見るうちに闇の底に、まっさかさまに落ちてしまいました。
あとはただ、その炎上の様子のミラーサイトだけが、はてなスターもなくアーカイブに残るだけでございました。


お釈迦様はその一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがてアクセス数が落ち着きますと、またぶらぶらサイト巡回を始められました。罪人の行いがお釈迦様の目には浅ましく思召されたのでございましょう。
しかし、極楽の蓮は少しもそんなことには頓着いたしません。なんともいえないよい匂いが絶え間なく辺りへ溢れております。極楽ももう午ちかくなったのでございましょう。
本日も蜘蛛の巣は大繁盛でございます。



http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card92.html