いつも遅れてやってくる

だいたいにおいて、子供は直ぐに泣き出したりはしない。
例えば頭を打ったなら。その後真顔に戻る時間を挟んでから火がついたように泣き始める。

痛みを認識するまでに時間がかかるのか、それとも、泣く方法がまだよくわかっていないのか。親が身構える時間をくれているのなら優しい限りだ。


なんにせよ、泣き出す前のあの瞬間には、なんともいえない落ち着いた時間が流れる。鳴き声の嵐がくるとわかっているはずなのに、何故だか慌てることがない。

壊れる予定の静寂の、息が詰まるような、あの瞬間。

ただ、どこかで同じような時間を見た気がする。
いや、花瓶が倒れる瞬間とかも同じような感じだけれど、それとは違って。
そんなに前でもないのだけれど。


ああ、そうだ。キミが産まれたときだ。
キミが泣き出す前の、あの不安と喜びがない混ぜになったあの時間。
きっといつもあの瞬間を思い出しているのだ。
だから、泣くのに少し嬉しい。
キミの泣き声はいつも遅れてやってくる。